プロローグ
10月下旬、そろそろ秋らしく涼しい空気を感じながら、私の職場であるK支店に出勤した。
今日は11月1日付けの人事異動の発表日、4月や10月の半期の人事異動ほどではないが、毎月多少なり異動者がいる。
誰か知り合いでもいるかと、何気にイントラで人事異動リストを、ざっと流すようにチェックする。
ふと、かつて同じ職場の後輩だったTの名前が目にとまる。
Tは、3年前、私が彼の職場から今の支店へ異動するまでの間、あるプロジェクトを一緒に担当していた。
異動の内示を知らされてからはTへ全て引き継ぐように仕事をシフトしていった。
Tは今まさにそのプロジェクトの建設現場へ長期出張しているはずだ。
(あいつ出張中のはずだけど、このタイミングでどこへ異動するっていうんだ?)
異動先を見やり、そこに書かれていた語句を読んで、まさか?!と思った。
見間違いではないかと、あらためてじっくりと読む。
間違いない、「自己都合退職」と書かれている。
あいつが?
たしか半年前に電話で話したときには元気そうな声だった。「(昨年生まれた子供が)めっちゃ可愛い!」と言っていたから、今度は子供の話で盛り上がれるなと、その時は思っていた。
4年前には勤め先の支店から通勤30分圏内にマンションを買った話を聞かされた。
いったい、どうしたんだ?何があった?!
彼が会社を辞める理由が思いつかない。
誰かに尋ねてみようかという思いが逡巡する。
イントラのSkypeでTにメッセージを送ろうかと連絡先を確認すると、彼はもう2ヶ月以上ログインしていなかった。盆休あたりからログインしていないことになる。
この退職、前向きな理由とは思えず、いやな気分になった。
Tの職場の先輩達は、私のかつての職場の先輩でもある。Tが出来るヤツだというのは先輩も同じ認識のはずだ。
なぜ引き留めることができなかったのか、聞きたい衝動に駆られる。
しかし、聞いていいものかと躊躇う。
(Tにプロジェクトを背負わせたお前が悪い、と責められるのではないだろうか?)
その日は気も漫ろで、どう仕事をこなしたのか覚えていない。
つづく
※ 本文は未校正です written by あず @2019-10-23
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